遺産相続で地方の預金9兆円が首都圏へ

 東北の地方銀行が遺産相続による預金流出を防ぐため、次世代との接点づくりに取り組んでいる。相談しやすい体制の整備に加え、インターネット支店の開設や信託業務の拡大を進める。人口流出に歯止めがかからない東北は30年間で金融資産の2割が域外に流出するとの予測もあり、金融事業の土台となる預金の確保は各行で喫緊の課題となっている。

 「年末年始の家族が集まる機会にお役に立てればと思います」。宮城県富谷市の仙台銀行大富支店で19日に開かれた相続対策セミナーで、同行の担当者は参加者13人に税制度や生前贈与の仕組みといった相続の基礎を伝えた。

 同市の保育士女性(56)は義母が老人ホームに入り、夫は病気を抱える。「2人が元気なうちに相続について考えないといけない。仙台銀行は家族も信頼しているので、話を進めやすい」と話した。

 同行が支店でセミナーを開くのは初めて。高齢化が進む地域に出向き、銀行が相続についての相談の受け皿となることをアピールする狙いだ。相続人を対象にした定期預金の金利を0・45%上乗せした0・675%に優遇する商品も展開する。

 浅野詔子窓販営業課長は「地域の金融機関として長年預かってきた資金をきちんと次世代につなげることが大切だ」と強調した。

 三井住友信託銀行は2022年の調査で、東北の預金を含む家計金融資産約40兆8000億円のうち、相続を通して約9兆5000億円が30年程度の間に域外に移動すると見積もる。流出資金のうち、7割が首都圏に集まるという。

 七十七銀行の小林英文頭取は11月の中間決算発表記者会見で、現状の相続に伴う預金の流出入を「年間100億円のマイナスになる」と説明。域外の相続預金の預け入れ希望者を想定し、26年4月にインターネット支店を開設することも発表した。

 加えて、同行は相続ニーズの高まりを受けて自前での信託業務に力を入れる。宮城県内の主要支店に担当者を配置し、24年度の遺言信託件数は前年度から1・8倍の126件に上る。

 遺言信託は主に不動産や多様な金融資産を持つ富裕層が対象となる。同行の預金口座に預け替えると手数料を割り引く特典も付けた。遺言執行手続きの際、相続人と向き合う時間が増えることでインターネット支店などの相続預金口座の案内も可能だ。

 地域金融に詳しい日本総合研究所の大嶋秀雄主任研究員は「金利優遇やインターネット支店は預金残高の急激な減少を回避するのに一定の効果はある」と評価した上で、「域外の相続人にとってはメイン口座にはなりにくく、長期的に預金の流出は止められない。地域を活性化し、人口流出を防ぐ地道な取り組みこそが地方銀行に求められる」と指摘した。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です